現在私たちの国は、地球規模で深刻化する温暖化や生物多様性の喪失、地下資源の枯渇などの環境問題に加え、地方の里地里山地域を中心に急速な人口減少に伴う経済低迷・雇用悪化・地域コミュニティーの衰退など様々な社会的課題に直面しています。環境問題と社会的課題は複雑に関連しあっていることから、その解決には「低炭素・資源循環・自然共生」社会にむけた総合的アプローチが求められています。
その総合的アプローチの一つとして注目されているのが、木質バイオマス等の新たな里山の利用促進による生物多様性保全・生態系サービスの強化を通じた総合的アプローチです。生物多様性は日々の暮らしや産業・福祉・教育・文化などに様々な恵み(生態系サービス)をもたらしてくれる社会基盤です。それだけでなく、歴史性をもった各地域に固有のものでもあることから、街のブランド力や独自性のある商品・サービス・産業を生み出す上での経済的資源となりうるものです。国土の4割を占める里山についても、薪や木炭といったエネルギー資源としての価値が失われたことで伝統的管理が放棄され、生物多様性の衰退につながっていますが、その一方で都市住民やNPO、企業・自治体など多様な主体によって、分散型の再生可能エネルギー源、教育、福祉、レクリエーションなど様々な利用価値が見出されています。
現在の里山の生態系サービスの多様な利用ニーズをより見える形で地域社会の中に定着させ21世紀型の里山の利用を促進することが、環境問題と社会的課題の同時的解決には重要です。特に木質バイオマスの利用促進は、地球温暖化対策としての省エネルギーの実現やエネルギー支出の抑制による地域経済活動全体の活性化にもつながるだけでなく、これまでは不十分だった二次林や草原の生物多様性の保全をより強く進めることができ、回復した生物多様性を活かした地域創生や、生態系レジリエンスの維持による地球温暖化対策にもより一層貢献できる有効なアプローチだと期待されます。